布石の常識 5

9 厚みは長期にわたって運用するもの
厚みは地とは対照的なものです。相手石の内側にモグってきた地は絶対に減らない確定地であり、価値はそれ以下でもなく、それ以上でもありません。だから、地のことをよく「現ナマ」などといいます。それに対し、厚みというものはそれ自体で価値は決まらず、運用次第で大きな利益を生んだり、あまり役に立たなかったりします。地が現ナマから、厚みは「株」みたいなものでしょう。
厚みを十分働かせるコツは、見返りを急がず、長期にわたって活用することです。厚みをすぐ地にするなどは見返りを急いだもので、もっとも下手な活用法といわねばなりません。
1図

白1のワリウチに対し、黒2とツメたくなる方が多いのではないでしょうか。しかしこの黒2は厚みを地にしようという考え方で、厚みが本来の働きをしません。白3から7でゆったりおさまられ、下方の厚みがあまり働かなくなりました。
2図

むろん、黒1からのツメが正着です。白2と厚みのほうへおびき寄せ、なお黒3、5で攻めることができます。いつの間にか、上辺が大模様になったのは下方の厚みの働きにほかなりません。
3図

こんな配置で白1と打たれたとしても、黒2からツメるべきでしょう。白3は厚みに近づき、二間ビラキはまだかなり薄い感じです。黒2でa、白2は厚みを生かしていません。厚みを地にするな、とはいっても、それ相当な地にするなら悪くありません。厚みの価値以下の地を作ってはいけないということです。
4図

右辺下方に白の厚みがあり、これをどう生かすかですが、地模様を作るなら、白1まで行かなければもしろくありません。白1からさらにaとトブことになれば、不足のない地模様の広さでしょう。かりに黒bとでも打ち込んでくるなら、そのときは白cと攻めて、厚みが百パーセント以上働いてくるでしょう。
5図

左上隅方面の白の厚みにご注目ください。黒1とヒラキを打ってきたのに対し、白はどうするかというところです。断然、白2とカカる一手です。黒3のとき、白4のツメ。これで黒1の石を攻める態勢ができ、左方の厚みが働いてきます。黒7に白8とトビ、こちらの石さえ大事に打てばよろしい。左方の白はビクともしませんから、ふつうに打っていれば、自然に黒を攻めていることになります。
6図

白1は厚みの見返りを急ぎ、地を作りにいった手です。黒は喜んで2と守るでしょう。この結果、厚みがどんな働きをするか、考えてみてください。黒2と守られてしまったので、攻めに働く余地はなく、地を作る楽しみしかありません。それも白1のヒラキの幅では満足できるものでなく、明らかに不完全燃焼です。





7図

かりに黒1とシマったとしたら、白は2といっぱいにヒラくべきです。打ち込まれるのは大歓迎なので、白2でaなどと遠慮してはいけません。

ポイント

厚みは活用次第。


地を作るよりも、戦いに活用するほうがよく働く。

地を作る時は、いっぱいに手を広げる。


中に打ち込まれるのは大歓迎。


10大模様の碁では、ポイントを外すと命取りになる
大模様の碁は、ふつうの細かい碁にくらべて、争う単位が大きいといえます。5目、10目を争うのではなく、いっぺんに30目ぐらいずつ争っている感じです。だから、小さなミスというのはありません。一つ間違えたら致命的になっしまう。それだけ、大模様の碁は難しいし、こわいのです。大模様といえば武宮本因坊を思い出しますが、ほかの人がなかなか真似しないのは、真似をしたくてもこわくてできないからです。大模様同士の碁では、とくに模様の天王山を見失ってはいけません。自分が打つべき必争点を相手に打たれたら、たちまち碁が終わってしまいます。

1図

黒1などは、その好例でしょう。右辺の黒模様を広げながら、上辺の白模様を制限する、まさに天王山です。これを見失って逆に白1、または白aと打たれたら、いっぺんに形勢がおかしくなります。
2図

黒1も模様の必争点というべきでしょう。上辺の黒地がもりあがりを見せ、同時に右辺の白模様の拡大を妨げています。黒1から、さらに黒a、白b、黒cの調子があることも見落とさないようにしてください。
3図

黒1も大場ですが、必争点ではありません。白2を利かされ、天王山の白4に回られて、黒は形勢を損じています。双方の模様の消長を前図とよく見比べてください。
4図

白1と打ちました。あまりパッとしないところのように見えるかもしれませんが、これが大切な一手です。大模様の碁は、とくに視野を広げ、碁盤をせまくして目の中に入れる必要があります。この局面では、左方黒▲の石を軽視してはなりません。
5図

黒▲を軽視してはいけないということはどういうことでしょうか。かりに右下方面に目が行かず、白1とでもカカったとしましょう。黒2に白3と構えるぐらいです。すると黒4がきます。白5のとき黒6。どうですか。黒4、6から黒▲まで一本の糸を張ったようになったでしょう。このため、真ん中がスッポリ黒の勢力圏になってしまいました。碁というものは、自分のいい手ばかり探してもうまくいきません。相手の立場になり、相手のいい手を見つけることが大切で、それを打たせないように工夫しなければなりません。
6図

前図のつづきを少しごらんいただきましょう。黒1とツイで左辺の地模様を固められました。白2がやはり黒の大模様に関して重要な一手です。逆に黒からこの点に打たれると、まだまだ大模様がフクれてきます。部分的には黒3と守らせてもったいない気がしますが、部分よりも大切です。黒1は2もあったでしょう。


ポイント

大模様の碁は一手の価値が大きくなるので、ミスが命取りになることが多い。

とくに視野を広げることが大切

相手に大模様の絶好点を打たせないよう、よく観察すること。


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