四・五子局 次の一手4

平成13年週刊碁に「考え方を変えましょう」という題で本田幸子七段が連載されたものを紹介します。
攻防の要点、急所を見逃さないようにしましょう。
第31型  黒番  解説
左上のツケノビ定石は、黒10のあと白14と出れは黒Aとゆるめます。しかし、黒12、14と打ったのはいい手でした。白15が必要なので、先手です。なぜいい手かというと、白13と立たせ、重くして攻めようとしているからです。ところが、黒16と辺のヒラキに向っています。このかたは攻めるよりも、守りのつもりで黒12、14を打ったのがわかります。
白17から動き出してこられました。黒24の押しも、たいへんいい手でした。天元の石とつながり、白を包み込むように攻めています。
すると白25のカカリです。
さあ、ここでどうしますか。





第32型  黒番  解説

白15のボウシに、黒は中に出ていくことを考えます。では、どのように出ていきますか。
実戦にたびたび経験します。
黒12の石が攻められていると思う。辺でとじこもって生きるのは悪そうなので、中に出ていきたい。そう考えるのは、間違っていません。
しかし積極的な人はこう考えるでしょう。上の白三子(白5、7、9)が弱そうだ。中に裂いて出れば、この三子を攻めることができるかもしれない。と。
守勢と攻勢と、気持ちの持ち方ひとつです。
手筋や形の知識に、気持ちが加味すれば、鬼に金棒です。






第33型  黒番  解説
黒14をAにツイであれば、白23のツケコシは心配ありません。しかし、カケツギでもよく、白15から19とワタったなど、問題になりません。石が外回りにきて、圧倒的に黒がいいのです。
では、ここまではいいとして、白にツケコされました。問題は黒2の一子にこだわりをもつかどうかです。白21というカカリがすでに打たれています。そのへんのところを勘案して、近未来の図を予測してみてください。いい図を選ぶか、わるい図を選ぶかの分かれ道なのです。









第34型  黒番  解説
白19とはまた、たいへんな薄さであり、打ちすぎです。強い黒に近づきすぎて、悪手に近いといってもいいくらいです。
ここで黒は、隅が心配と弱気にならないことです。味方の強いところでは、強く戦います。
T 白7、11の2子が弱いこと。
U 白19と11のスキ間ずいぶんあいていること。
この二点を視野にいれて、当然裂いて出ることを考えます。
では、どう出ていきますか。







第35型  黒番  解説
黒12まではカベの厚み。
白21、黒22の交換で、この黒は強い石になりました。強いということは、厚いということです。
この財産を活用するには、少し飛躍して、思い切った手段を考えてください。































解説

31−1図  完封

攻める気持ちがあれば、黒1とかぶせる手はたやすく浮かぶはずです。生きにくれば、生かしていいのです。図はぐるり黒石が取り巻いて、十分です。黒11と天元で、モヨウが立体的に盛り上がりました。
31−2図  動けない

黒1と横から迫るのも有力です。白2とは、動きづらい形で、黒7のカケがぴったりします。
白4、6と受けなければ、黒aのカケが、またいい手になるでしょう。

31−3図  白の本手

さて、実戦ですが、白は1につながっておくくらいのもので、それが本手でした。黒2とモヨウをひきしめて、五子局としてはこれで十分です。上手がそう打たなかったのは、下手の実力打診の意味もあったかもしれません。
31−4図  実戦

実戦はこう進みました。相手の石音のしたところを、ついていっています。厚みを地にしようと、黒1から3です。これはいい打ち方といえず、黒1ではaにハサむ定石を選ぶべきでしょう。

31−5図  急所

しかしそのことよりもなによりも、肝心の石の競り合い、攻防は、まだ終わっていなかったのです。黒1のマゲは白をつながらせない要点であり、急所の一手でした。実際、黒1からここを続けて打てば、白は苦戦を通り越していました。白2、4と盛り上げれば、ますますいきぐるしくなるばかりです。


31−6図  変化 好調  問題へ

白2と早逃げしてみます。しかし黒3、5のカケノビが、とてもいい気分です。白6の受けがしかたなく、黒7でまだまだ攻撃が続くのです。攻めるだけ攻めてから、黒aのハサミにまわればいいでしょう。黒1以下を打つことで、左辺白モヨウがふくらむのをさまたげています。それが大きな利点です。31−3図とくらべてみてください。攻防の急所とは、このようなものです。私たちはそんな急所を、いくどとなく見過ごしていませんか。
32-1図  実戦

黒1、3のツケノビで出ていきました。ひとつの形で、なにもいうことはありません。あきらかに上の白三子を視野に入れています。白4からお互いに中央に向って進みました。こういう競り合いになると、天元の置石が力強い味方になってくれるはずです。上手は、ほんとうに困りました。しかたないので、白10のブツカリ。すると急に弱気になられて、黒11につながったのです。
白12で黒一子をのみこみ、味のいい白地完成です。いえ、白地というよりも、攻められるはずの白石がつながって、すっかり安心してしまいました。
32−2図  手筋

この形、黒1、3という常用の筋があるので、ついでに覚えておきましょう。よく出てくる形なので、知っておいて損はありません。白4は黒5と出てよし。







32-3図  黒、無理

白は4と内側にハネてきます。ここで黒5と出るのは、白6、8で黒の無理な形です。


32−4図  捨石

黒1のほうを切り、白2に黒3と、2子にして捨てます。すぐ黒5にアテ、白3と抜かせるのではありません。そして、黒二子はオトリです。捨石にして黒5、7と強化。黒9と封じて、大優勢でしょう。
32−5図  自然に優勢

完封されてはたまらないので、白1。
しかし自然に黒2、4と出て、悪い理屈はありません。天元が生かされました。

32−6図  バラバラ

白1から3とトビ出せば、こちらはいちおう安泰。しかし黒4と動き出して、白はバラバラです。やはり苦戦はあきらかです。32−4図、黒7までの手順は、ぜひ活用してください。
32−7図  これもある

32−1図、黒7での変化。
黒1と中央を制してしまうのもあり、白2には黒3で戦えました。


32−8図  有利な戦い  問題へ

最後に32−1図、黒11の緩着について。
敵の急所は我が急所。黒1にどっしりと構えて、がんばります。白2、4が心配かもしれませんが、黒5と切り返して大丈夫。aのゲタとbの取が見合いになっています。黒1こそ、精神的に積極的な一手でした。
33-1図  普通

黒1と、下をカケツげば安心は安心です。白にワタられる心配はありません。やはりaのツケコシには気をつけましょう。

33−2図  大変

黒1、3と取りにいくと、シボられてお団子にされてしまいます。あげくに全部取られるという「お団子体験」、みなさんおありでしょう。黒3で気がついて、aにカケれば救われます。
33−3図  用心深く

第33型の黒22で、
黒1と用心して、aにそなえておくのも堅実でした。同時に白へのハサミも兼ねています。白2に黒3、白2で3なら、黒bにコスんで出ていきます。いずれにしてもこの方面で、黒が主導権を握ることができます。


33−4図  実戦T

実戦はツケコシに挨拶しないで、黒1とかわしました。ソッポを打ったのではありません。すばらしい感覚、の一語につきます。つぎに黒aがあるから白2の一手。黒3から5と要点をぽんぽん打ち、豪華な大モヨウ完成です。小さな辺の一子にこだわらなかったこと、味わるとみて、相手に連打させたこと。その判断がすばらしかったといえます。では白6とノゾいてきました。これにどう応えますか。ここまでのいい感覚といいフットワークを、持続させたい場面です。
33−5図  混戦

多くの人が、黒1から3と引っ張って打つのではありませんか。しかし白6とかぶせられ、黒は辺でとじこもって生かされそう。
置き碁はこういうふうに、とじこもっているうちにおかしくなっていきます。実戦の33−4図とは、大違いですね。
33−6図  実戦2

実戦は白のノゾキに対して、黒1とつながりました。これまでいいセンスを披露してきただけに、ここでカス石を助けたのはたいへん残念です。白2、4と大きくつつみ込まれました。そして黒11まで、小さな生きに専念しています。自分から、とじこもりにいったようなものですね。
33−7図  捨石

黒四子は、いまとなってはもう小さな石なのです。だから捨てることを考えましょう。白4から黒7という図をえがけば、取られてもちっとも惜しくないのがわかります。このあと白a、黒b、白cには、黒dというお返しがあります。
33−8図  大小感覚  問題へ

この形をひとめ見て、白aで取られるのはけっして大きくない。しかし白bでつつみ込まれるのは大きいと、判断できるかどうか。この大小感覚を身につけてください。

34−1図  実戦

黒1とトビ出しました。ごらんください。ハネ出して、黒5、7のアテツギです。黒9のキリから一子取り込みました。結果から見ると、攻めようというのではなく、地をとろうという打ち方ですね。外の白をすっかり厚くさせたので、この打ち方はとても正解とはいえません。原始的な俗筋、といっていいかもしれません。黒1から7まで、石がすっかり内にこもっていますね。このような筋は、きょうから即座にやめにしましょう。



34−2図  モタレ

黒1と、ここにツケて出るのがもっともきびしく、正解です。相手にモタれて攻める。攻めたいのは一間にトンだ白二子、それの逆方向にツケるのです。
このあと、ふつうに打てば黒に悪い図ができません。白2ら5は、ツケノビ定石のようなものです。もし白6から生き形を得ようとすれば、黒11のマゲ。
あるいは黒aのコスミ。白の2子はずいぶん苦しくなってきました。
34−3図  大優勢

白6とカケツイで守るなら、黒7という強手。この手でaにマゲ、次にbのカケを見ることもできます。白は困りました。





34−4図  大利

白はカケツイで守っていられないと、白1のトビでしょうか。それなら黒2と遠慮なく切ってしまいましょう。2子取れば大利ですし、外の白は34−1図と違って、ずいぶん薄いですね。
白3で4と下からアテ、どんどんハウのも、黒十分のワカレになります。このようにモタれて出るのが最強最善でした。
34−5図  ぼんやり

黒1から3と出ていくーーただ出ていくというだけで、目的がいまひとつはっきりしません。何となく、ぼんやりした打ち方です。

34−6図  封鎖

黒1まですすめてみます。白2から6、8という手筋で、進出がとまります。この封鎖の筋は、実戦によく出てきます。結果は白の厚みが黒の実利にまさり、安心させてしまいました。
34−7図  攻めない

すぐ出ていかず黒1の守り。白2とつながらせても、あとから全体をねらうという打ち方もあるでしょう。しかし黒1が守りの気分だけで終わってしまうのでは、少しもったいない気がします。
34−8図  大ゲイマ  問題へ

ちなみに最初白1の大ゲイマなら、黒2か、その一路左の受けです。


35−1図  実戦T

この実戦経過を見て、少し変だと思いませんか?
黒▲で、黒は強い石になりました。そこからまた、黒1から9まで、カベをこしらえているのです。白は下辺を固めさせてもらったうえに、白10がぴったりのワリ打ちになりました。
強い石にさらに、厚みをくわえた。そうです。屋上屋を重ねる、コリ形。重複形なのでした。

35−2図  好点さがし

冷静に観察して、好点をさがしてみましょう。
下辺方面は黒▲が強いので、aの打ち込みやbのツケまで踏み込めます。あるいは遠慮して、cと上から消すのもいいところ。
また上辺に目をやると、dの守りやeの打ち込みなども好点でしょう。eは右上のカベをバックに、上辺の白を攻めようとしています。
以上のどれを選んでも、黒はらくらく形勢をよくすることができました。
35−3図  辺の定石

黒1のような筋は、下手はなかなか使いこなせません。「辺の定石」の一例を示しておきます。
黒3のハネが肝心。白6のあとーーー
35−4図  白低位

白1から5とシチョウにカカえれば十分。白の位は低く、ワタリを強要されました。

35−5図  モヨウ拡大

黒1と上から利かし、3に大きく広げているのも有力。相手をへらすか味方を広げるか黒▲の厚みはどちらにも利用できます。
実戦はそのどちらにも、役立っているとはいえません。





35−6図  実戦U  白4ツグ(2の右)

そのあと、こうすすみました。途中、黒13など宇宙流の好手ですね。
一点だけ、右辺黒19に着目してください。ここは打つなら、黒a、白b、黒cがぴったりした形です。しかしそのこととはべつに、左辺白20に先着されています。
こうは考えられないでしょうか。35−1図で屋上屋を重ねるくらいに厚く打った。いままた、黒13から17と中央の線を切った。だから黒19では左辺の白を攻められないかと。
35−7図  攻めたい

そうです。ここはぜがひでも、攻めを考えたいところでした。黒1の押しからもっていきます(つぎに黒2のハネとaのフクレ)。そして黒3から5のボウシです。白6、黒7のあと、この白はシノギに苦労するはずです。
このような態勢になれば、さきのコリ形もあながち無駄にはなりません。置碁は何回もチャンスがめぐってきます。自信をもって、そしていまよりももう少し積極的に、をモット-にしましょう。


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